【ならじょ Today36 号掲載】
工学部 数物科学専攻 物理学コース
【研究テーマ】素粒子論、場の量子論、弦理論、弦の場の理論
【研究テーマ】素粒子現象論,非摂動ダイナミクス,超弦理論,格子場の理論,素粒子論
―― 物理学コースではどのような教育?研究が行われていますか?
(高橋先生)素粒子のような小さなものから宇宙という大きなものまで、さらに宇宙の始まりから未来まで、ありとあらゆるものが物理学の対象となります。物理学コースにいるスタッフの研究分野は、この広範な物理学を比較的一様に覆っていると思います。物理学の基礎を身につけたあと、究めたい分野を研究できる教育が行われています。
―― 「素粒子」って何ですか?
(高橋先生)物質を構成する最も基本的な粒子、電子やニュートリノ等が素粒子とよばれています。光も光子とよばれる素粒子の集まりです。この世のあらゆるものから素粒子からできていると言っても過言ではありません。ただ、素粒子は粒子なのですが、それは素粒子の一側面を見ているに過ぎなくて、本質的には粒子と波という二つの性質を備えたものです。波のように広がって行き、捕まえると粒のように見える。それが素粒子で、素粒子が何かということを本当に理解するためには、量子力学の先にある場の量子論を理解する必要があります。
(大木先生)場の量子論では、粒子を宇宙や空間全体に拡がる一つの「場」だとして、そこから波のように形成されていく一つ一つの単位が素粒子であるといえます
―― 素粒子を研究する(=識る)ことで、何を識ることができますか?
(高橋先生)大げさかもしれませんが、私たちはどこから来たのか、何者か、どこへ行くのか、について識ることができます。素粒子を研究していると、あらゆる現象は素粒子がつくりだしていることがわかります。さらには、宇宙にはなぜこのような物質が存在するのか、なぜ宇宙は4次元なのか、そもそも物理法則が成り立っているのはなぜか、宇宙には終わりはあるのか等、私たちの存在について問い直すような問題が素粒子論では研究されています。
素粒子は、何種類もあって、それらに働く力は4種類あります。ところが、素粒子と力の違いは見かけ上のものであって、それらを区別しない法則、統一理論が背後にあることが50年ほど前にわかっています。この考え方を突き詰めると、素粒子と力に種類があるのは、一次元的な広がりをもった弦の振動の違いのためで、究極的には一本の弦だけが存在するという理論に辿り着きます。なぜ今あるような物理法則が成り立つのか、この理論はそれを説明する可能性を秘めており、世界中で研究されています。将来、素粒子でこの世のすべてがわかった、ということが起こるかもしれません。
―― 先生方は何をきっかけに素粒子論に興味を持ちましたか?
(高橋先生)小さなころから理科や図工が好きで、工作をしたり、電気分解の泡を見つめていたり、永久機関について考えたりすることが好きでした。そのような中で、中学のときに相対性理論について知り、物理への指向性が強くなっていたように思います。いろいろ本を読んでいくうちに、素粒子論という分野があることを知りました。面白かったのは、湯川秀樹、朝永振一郎等、素粒子論の黎明期に日本人が活躍していたことですかね。自分もやってみたいと漠然と思いましたね。ちなみに、先に話した統一理論の基礎や弦理論については、南部陽一郎先生が提唱されたもので、素粒子の種類については益川さん、小林さが予言をされました。ここで述べた方は全員ノーベル賞受賞者ですから、やっぱりすごいですよね。
(大木先生)私は、なぜこの世界があるのか?世の中どのなっているのか?ということを突き詰めて迫ってみると究極的にはどうなるのか?ということを知りたかったからですね。頭の中で考えて、理論を組み立てて自然界などの世界に迫れるということに魅力を感じました。自分の頭の中だけでそれらがわかるのが面白いですよね。そういうことが追究したくて。
―― 素粒子物理学の魅力は何だとお考えですか?
(高橋先生)それはやはり、この世界を理解できることが魅力ですね。理解できるとは何かというと、この世界を美しいと感じることができるということです。生まれてきてよかったと思いますね。生きることが本当に楽しいです。世界の美しさを感じられるということは本当に素晴らしいことです。
(大木先生)数学的な美しさというものもありますね。それらは芸術に近いところもあったりします。
(高橋先生)そういうこともあって、やはり研究が面白いんですよね。僕らで研究の話をし出すと止まらないです。お昼ご飯を食べながらずっと研究の話をしています。
―― 素粒子理論研究室が求める学生像はどのようなものですか?
(高橋先生)自分自身で様々なことについて考えることができる学生さんたちですね。あらゆるものに対して、なぜ?と問い続けてほしいです。本に書かれていることすら疑ってほしいと思います。本当にそれは正しいですか?と。物理現象に限らず、例えば社会だとか、様々なことについて問い続けてほしい。この世界はあらゆるものがそれぞれに関係しています。無関係なものはありませんからね。
―― どうしたら先生方のような研究者になれますか?
(大木先生)楽しく長く研究を行えることが大事ですね。研究が楽しいなって思うことができる、そういった意味で研究が好きで行うことができる。好きじゃないと研究を続けることはできない。そこが一番大事ですね。
(高橋先生)良い研究というのは、楽しんでいる中でできることだと思いますね。楽しんでできることが一番大事です。なかなか安定したポストが見つからなくて、はたからみると苦しそうな状況に見えるような方でも、長く良い研究をしている方もいます。そういう方たちは研究を楽しんでいるだと思います。どんな状況でも研究を楽しむことができるのですね。
(大木先生)自分は研究をしているのだと言えばその瞬間から研究者です。例えば素粒子論では、頭の中で行うことができる研究なので高価な設備などを使わなくても最先端の研究が行えます。また、研究者になった時に自分はどういう風になりたいかというイメージを明確に持っておくことが大切になってくるのではないかと思います。自分の目標に向かって突き進むということがとても大切です。研究テーマは誰かに与えられるものではないので、自分でテーマを見つけて研究していかないといけないからですね。
(高橋先生)面白いと思うことを考え続ける人が研究者だとすれば、いろんな形で研究している様々な研究者がいますね。研究者になる明確な方法や決め手は無いですが、考え続けることが好きだったら研究者になれる、もうそれは研究者です、と言うこともできると思います。僕らも素粒子論についてずっと考えながら過ごしていましたね。
―― 物理学コースを目指す学生にメッセージをお願いします。
(高橋先生)物理学というのは宇宙のあらゆる現象を対象とする魅力的な学問です。更に、物理学コースで身につける数学物理や実験の方法は、非常に普遍的な方法、ユニバーサルな方法になっているんです。そういう知識や技術を身につけて卒業した先輩には、自動車や鉄鋼、電気、コンピューター、金融など、そういったところで研究者、開発者として活躍する方たちが沢山います。そういう意味で、宇宙の全てを理解した上で社会に出て活躍したいという人は、是非、物理学コースを目指してほしい。そういう風に思っています。